佐倉の音が聴こえるか。サウンドデザイナー・沖田純之介さんインタビュー更新日:2023年02月15日

 世界中の音楽・映像制作に参加し、サウンドデザイン、ライブレコーディングミックスなどを手掛ける「株式会社okidesign」代表 沖田 純之介さん。佐倉市に移住後、印旛沼周辺で佐倉市にまつわる様々な音を収録しています。
 “音”から見た佐倉の姿や、移住や新しい働き方に適した環境など、多角的な視点から佐倉の魅力を語っていただきました。

サウンドデザイナーの仕事

――沖田さんの会社ではどういった業務を行っていますか?

 映像作品のサウンドデザイン、アーティストのレコーディングやミキシングが多いです。
 映画や広告の映像は、最初は無音なことが多いのですが、そこに何の音をどのように流すか計画し、実際に音や音楽を作って加え、音データを完成させるまでのすべての作業を行っています。それが、サウンドデザインです。
 昔はアナログレコードやCDなど音だけの媒体が主流でしたが、ビデオやDVDが登場して以降、音と映像をセットにした商品が生まれました。僕は当時、そこに目をつけ、映像に合わせた音を作る仕事を始めました。
 また、ミキシングは複数の音データを調整する業務です。レコーディングした楽器や歌などの音量や音質を調整してまとめ、ミュージックビデオやBlu-rayなどで求められる高品質の楽曲データを作るのです。
 当初は、映像専門でミキシングする人が誰もおらず、たくさんのアーティストとお仕事をさせていただくきっかけになりましたね。

収録番組のサウンドデザイン作業中

――これまでで、いちばん印象的なお仕事を教えてください。

 仕事内容の面では、Herbie Hancockのレコーディングとミキシングですね。「好きなように作って」と依頼され、納品後も「いいものを作ってくれた」と一発でOKをもらいました。
 仕事環境の面では、東日本大震災の時に、余震や計画停電の中で作曲等のクリエイティブな仕事をするのが大変だったことが印象的です。
 当時から海外ともデータをやり取りし、国内と変わらず多くの仕事をしていましたが、ネット環境がダウンしたら納品できず、海外のクライアントが事情を理解してくれるわけもありません。計画停電のニュースとにらめっこしながら、緊張のなか、作曲を続けました。

――苦労なさることも多いのですね。

 苦労は特にないですよ。仕事を辛いと思わないんです。そうでないと、プロとして仕事を続けていくのは難しいと思ってます。
 常にエンジンがかかっている状態で、そして、常に楽しんでいます。

――やりがいを教えてください。

 僕が手がけた映像作品や音を聴いてくださったお客様から、喜びの声を聞けた時ですね。
 昔は、アンケートはがきを制作会社に転送してもらい、ようやくお客様の感想に接することができました。しかし、今や、YouTubeなど動画コンテンツではコメントが直接届きます。それがうれしいですね。
 アーティストの生配信などの動画に、音響がすごくよかったと書き込みされているのを見ると、とてもやりがいを感じます。

移動式スタジオ内で、印旛沼を眺めながら編集作業。

“音”から見る日本と佐倉

――ご自身で音の収録作業も行うそうですね。

 東京ドームクラスのライブレコーディングや、映画や広告の台詞録音もしています。また、映画の効果音等は録音して作りますので、録音作業は常に行っています。
 その延長として、先日、栃木県で爆弾の音を録音してきました。特撮映画などの爆発シーンを撮影する専用の場所があり、爆破体験をしつつ、ナパーム爆弾とコンクリート爆弾の音を収録させてもらいました。簡単に録音できるものではないので、とても気に入っています。
 日本の場合は、爆弾やピストルの音などは国内では収録できません。日本のドラマや映画で流れる爆破音源は、ほとんどハリウッドに使用料を払って利用しているのです。
 ですが、これからは爆弾の音源を自前で所有し、自分で好きに加工して使えます。オリジナルの爆破音源ができたということは、商業的にも大きいのです。

――佐倉でも音の収録作業を行っているそうですね。どこで録音しているのですか?

 一番に市民の森、次に野鳥の森が多く、もっと静かな場所で音を撮りたいときは印旛沼駐車場に行きます。鳥が飛ぶ音や、秋であれば夕方の鈴虫の鳴き声などが撮れます。
 例えば、日本で配給される映画に森のシーンがあり、音を当てなくてはならないとしましょう。しかし、購入できるのはすべてハリウッドの音源、外国の森の音です。日本らしさのある森の音にしても、大手音楽事務所が著作権を所有しており、勝手に加工して使えません。
 既存の音の利用は制約が多い。だから、自分の音を集める必要があるのです。

野鳥の森で高所マイクを設置し、鳥の鳴き声を収録。

――佐倉でしか聞けない音はありますか?

 音の一部ではありますが、静か過ぎる事でしょうか。鳥が少ない、虫がいない、飛行機の音が聴こえすぎる。おかげで音を収録しやすい面もあるとは言え、僕は少々懸念しています。
 健全な場所や街では、人工的な音ではなく、もっといろんな音がしているものなのです。都心は常にうるさく、住宅街は子どもの声で賑やか。そして、田舎は野鳥や虫がうるさい。それが健全なのです。
 ですが、佐倉はそれらが何もないので静かすぎます。静かすぎて遠くの寺の鐘の音が聴こえ、曇りの日は電車の音が雲に反射して届く。街や森が老化して音が減っているのかもしれません。
 だからでしょうか、僕には大好きな佐倉の音があります。毎日夕方に、子どもたちの声でアナウンス流れますよね。「子ども達の下校の時間です。地域の皆様、見守りをおねがいします。」みたいな。初めて聞いた時から、いいなと思っています。

自然のなかで仕事を楽しむ

――ご出身はどちらですか?

 横浜生まれ、横須賀育ちです。ドブ板通りなどが有名ですが、アメリカと日本の文化が混在するまちで19歳まで暮らしていたことが、現在の仕事にも影響を与えていると感じます。そのあと、都内に15年ほど住んでいました。

――佐倉市に移住しようと思ったきっかけはありますか?

 僕は、田舎の湖のほとりにスタジオを建て、良い環境のなかで音の仕事をするスカイウォーカー・サウンド(※)をビジネススタイルの理想像としています。
 そのため、どこか地方へ移住したいと20代から考えていましたが、仕事が都内中心だったのでなかなか実行できずにいました。
 そのうち、技術進化により大容量データの送受信が容易になり、2008年に起業した際には、海外やリモートの仕事が8割を占めていました。一方で、都内のスタジオには常に客が来ます。業績は伸びていましたが、これではやり方が違うと感じ、田舎移住を本格的に考え始めるようになりました。
 東日本大震災が起きた時に今がチャンスと考え、2011年12月に佐倉に移住しました。両親が先に佐倉に移住しており、僕の理想の職住スタイルに合っていると思っていたし、自宅兼スタジオに最適な戸建て物件もすぐに見つかりました。

※スカイウォーカー・サウンド…映画『スターウォーズ』シリーズなどを手掛けるアメリカの映像制作会社ルーカスフィルムの音響効果・編集部門。
音の収録後に印旛沼を眺望する

――これからどういった活動を行いたいですか?

 仕事面での計画はたくさんありますが、後世に残る作品を作っていきたいですね。さらに、若手に道を作ってあげられるように活動しています。
 30年近くこの業界にいますが、若手の時は先輩方から、知識や人脈や仕事などたくさん助けてもらいました。だから今は、僕が若手のための道を作っていかなくてはならないと思っています。佐倉市内の方も含め、Twitterやnote経由で連絡をくれる若手の方も多く、この道はこう行くほうが良いなど無償でアドバイスしています。
 僕からはメジャー業界の最新情報を若手に提供していますが、いまの流行は、アートの世界もマスメディア向けではなく、パーソナル向けが主流になってきました。メジャーやインディーズの垣根がなくなり、僕も若手から刺激を受けることも多いんですよ。

佐倉で新しい働き方を

――お休みの日は何をされることが多いですか?

 キャンピングカーに自転車を積んで、子どもとサイクリングに出かける事が多いです。
 あとは印旛沼でカヌー、庭でアルコールストーブとメスティンを使って料理をすることも多いですね。キャンプインストラクターの資格を持っているので、地域の子ども達を連れてキャンプに行ったり、焚き火をしたりと、たくさん交流して行きたいです。

移動式スタジオも兼ねるキャンピングカー

――サイクリングのまちとしても、佐倉に可能性を感じていらっしゃるそうですね

 中学時代から修理して使い続けている自転車や、佐倉の有名な自転車店にカスタマイズしてもらったものも何種類か所有しています。印旛沼周辺はほぼ走りつくしてしまったので、自転車を車載し、遠方に運んでサイクリングを楽しむことも多いです。
 分解した自転車を電車やバスに載せて移動することを輪行と言いますが、輪行は佐倉の観光やビジネスの可能性を拡げると考えています。東京・佐倉間を直通往復するバスで輪行し、佐倉を自転車で周遊した後に帰京する日帰りルートなど開拓し、もっとPRしてほしいですね。
 佐倉の環境とサイクリングの親和性、都内からのアクセスの良さをもっと知ってもらいたいです。

――佐倉市がもっと魅力的になるには、何が必要だと感じますか?

 子どもが過ごしやすい環境が必要ですね。そして、働く先があれば若い家族も増えると思います。リモートワークがしやすいように、空き家に高速ネットシステムを付けて貸し出すなど思い切った手法も必要なのではないでしょうか。
 佐倉は、リモートワークやワーケーション(※)などの新しい働き方と、自然に囲まれた暮らしや子育ての両立を可能にする、移住しやすい場所です。都内へも電車で1時間以内ですし、成田空港にも近い。僕も東京に住んでいた頃より、国内外への移動が時短で便利になりました。
 コロナ禍で新たなビジネススタイルが定着したいま、多くの若い世代にぜひ移住してきてほしいですね。

※ワーケーション…非日常の土地で仕事を行うことで、生産性や心の健康を高め、よりよいワーク&ライフスタイルを実施すること。

株式会社okidesign HP : https://okidesign.jp/

沖田純之介 note : https://note.com/okidesign