ファーマーズマーケットから始まる「帰ってきたくなるコミュニティ」と「挑戦できる環境」づくり更新日:2020年09月18日

統一されたデザインのテントが立ち並び、新鮮な野菜や加工品が直接対面で買える「ソメイノファーマーズマーケット」が、地元出身の若者たちの手により、閑静な住宅街に誕生しました。彼らは、なぜこの場所でマーケットを始めたのか、そしてこれから何を目指しているのでしょうか。

佐倉市染井野にある七井戸公園の沿道で、8月8日から毎週土・日曜日に開催されている「ソメイノファーマーズマーケット」。「染井野」は、緑が豊富で閑静な住宅街。このファーマーズマーケットは、染井野で生まれ育った若者たちが立ち上げ、消費者と生産者をつないでいます。
主催するのは一般社団法人Someino Innovation Farm(ソメイノイノベーションファーム)。染井野出身の30歳前後の若者たち5人で運営しています。また、染井野出身のプロ野球選手、読売巨人軍の重信慎之介選手が公式アンバサダーとして協力しています。

テントや陳列台など、統一されたデザインで並んでいます

食を通じて地域のコミュニティを取り戻したい

「ソメイノファーマーズマーケット」を担当している、事業推進責任者の小口寛晃さんと武井健太さんにお話を伺いました。

―ファーマーズマーケットを始めたきっかけを教えてください。

小口:佐倉市でも昨年の台風や豪雨で浸水などの被害が出たり、今回のコロナウィルスが拡大したりということが、きっかけとして大きいですね。災害が起こると買い占めがあったり、地域の助け合いのコミュニティが弱くなってきているのではと感じていました。昔のようなコミュニティが取り戻せたら、災害の時にも助け合えるし、子どもたちが大きくなって転出しても、帰ってきたときに会える場ができて、まちが豊かになるのではないか。我々の世代は、通勤の便を考えて東京に住んでいる、という人が多いと思います。仲間と話す中で、子育てするときには染井野は環境もいいし、戻ってきたい。でも、戻ってきたときに楽しめる場所がほしいよね、ということから、将来的に楽しめる環境を作ろうと考えました。
我々が育った「染井野」という場所でファーマーズマーケットを開いて、こだわりを持った地域の生産者さんを呼んで、統一したデザインのもとでオシャレに、食を通じたコミュニティを作りたいと思いました。
佐倉市は直売をしている農家さんも多くて、都内と比べて早く新鮮な野菜が手に入りやすい場所でもありますし、生産者さんの顔を見ながら直接買えることで、地域の食の豊かさが深まっていけばと思いました。ですので、農作業で忙しい農家さんや店舗経営等で忙しい加工品業者さんに、直接お店に立っていただくことの難しさを感じながらも、生産者による直接対面販売にこだわってマーケットを運営しています。また、毎週土日に開催することで、普段使いをしてもらえるマーケットを目指しています。

左:武井健太さん 右:小口寛晃さん

―苦労したことなどはありますか?

武井:3月までは会社勤めをしていたんですが、このマーケット事業のために会社を辞めて取り組み始めました。ほかのマーケットさんで勉強させていただこうとしていたら、そのタイミングでコロナウィルス拡大で全てなくなってしまって、ファーマーズマーケットというものを肌で感じることができないまま始めなければならず、不安は感じていましたね。
実際にやってみて初めて分かることもあって、その都度改善したり、いろいろ試しながらやっていることが楽しみでもあり、不安でもあるという感じです。

―佐倉市で育ってよかったという思い出はありますか。

武井:思い出すのは、佐倉ふるさと広場。小学生のころチューリップの球根を学校ごとに植えて、春になったら花が咲いたのを見に行ったり、高校生になって友達と見に行ったら母校のチューリップを見つけて盛り上がったり。ふるさと広場は春のチューリップや夏のひまわりなど、季節ごとに素晴らしくて、こんな景色の場所はほかにはなかなかないんじゃないかと思います。

小口:高校生になって他市に住む友人から、給食センターで作られた給食でご飯が冷たかったという話を聞いて思い返すと、佐倉市は各学校に給食室があって、栄養士の先生がいて、給食がおいしかった。近くの農家さんが来たり、「今日の給食の野菜は〇〇さんの作った野菜だよ」という話があったり。学校でいも掘りに行ったりとか、畑が近かったりとか、食の豊かさを感じられる環境にあるんだということに気づかされましたね。佐倉市って「食」についての教育に力を入れていたように思います。

―今後「ソメイノファーマーズマーケット」をどのようにしたいと思いますか。

武井:本当に知識も何もないところから始めて、人と人とのつながりで何とか支えてもらっているところですが、もっと地域の人を巻き込んで、各出店者さんとWin-Winの関係を作りながらマーケットが成長していって、まち全体がにぎやかになって、という環境を作れたらと思います。

小口:もっとまち全体を巻き込んでいけるようなマーケットにしていきたいですね。今は若者が始めた小さな灯火(ともしび)ですけど、染井野だけでなく、佐倉市全体や千葉県内からも注目されるようなスポットになっていけたらと思います。

開催最初の土日には、読売巨人軍の重信慎之介選手の提供により、サイン入りラムネが来場者に配られました

「食べる」「暮らす」「働く」。生活に寄り添いながら「小さな挑戦」をいくつも生み出したい

ソメイノファーマーズマーケットを運営する一般社団法人Someino Innovation Farmの取り組みやビジョンについて、代表理事の平間亮太さんにお話を伺いました。

―Someino Innovation Farmはどのような取り組みをおこなっているのでしょうか?

生活に大切なのは、「食べること」「暮らすこと」「働くこと」だと思っていますので、「食べるを学び、暮らしを創り、働きを遊ぶ」をコンセプトに推進していきたいと考えています。震災や去年の豪雨災害でも、スーパーからものがなくなったり、買い占めが行われたり、非常時には「食」が脅かされることが多くて、まず「食」が大切ではないかと思い、僕がもともと東京・青山のファーマーズマーケットを手伝っていたこともあって、ファーマーズマーケットから始めました。
さらにマーケットだけではなく、いろいろな機能を付随することで、僕たちが戻ってくるときに楽しむことができるし、住んでいる人も楽しいよね、と話が進んでいきました。
そこで、佐倉市がどう考えているか、「佐倉市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を調べて、それとマッチングする形で事業を計画してきました。今後、「暮らし」や「働く」といったことにも事業を展開していきたいと考えています。

代表理事 平間亮太さん

―今後はどのような展開をお考えですか?

次は「働く」ということに取り組みたいと思っています。今は大企業に勤めても安定するとは限らないし、働き方はもっと複数持ってもいいんじゃないか、もしくは自分で仕事を生み出せる人になったほうがいいんじゃないだろうか。そうした働き方を生み出せる仕組みを作って、自分でスモールビジネスを始める、という人を増やしていくプロジェクトを進めていきたいです。
ビジネスを始めるときにはリスクがありますけど、そのリスクをまち全体で受容できるような環境を作りたいと考えています。染井野には非常に優良な会社を退職された方が多いですし、若い人を応援したいというマインドを持った方も多いと思いますので、そういった方々と、まちのお金と、何かしたいという人とを結びつけて、小さな挑戦をいくつも生み出していきたいなと。(挑戦による成功よりも)むしろ小さな挑戦的な失敗を100個作りたい。何かを始めようとする人を応援してくれる人はたくさんいるので、つながりを大切にしていけば、次の挑戦をしやすいだろうと思います。

―「ソメイノ」を名称に付けた理由は?

染井野生まれというのはアイデンティティとして強く持っています。小学生のころから、「将来市外に出て行っても、またここに戻ってきたい」と思っていて、実際に大学への進学を機に上京しましたが、いつかは戻るつもりでいました。
まちを自分事化できる範囲は半径2km圏内だと言われていて、生活圏内で何かが起きていることを感じられるようにしたい。僕たちの取り組みにほかのまちが感化されて、いろいろな場所で半径2kmの出来事が起こる、という世界が理想なのかな。資源の循環などを考えても、小さい経済圏で回していくのが理想的だと考えているので、このまちを表すことばとして「ソメイノ」が適切だと思いました。

―佐倉市のいいところはどんなところでしょうか。

バランスがいい、というところですね。偏っていない。町もあって、畑もあって、ここで全部完結できそう。特徴がないけど住みやすいところ。何もないようだけど、生活がそこにある、という感じがします。僕は今は東京に住んでいますが、東京は、仕事はしているけど、そこに生活がない。東京の人は、「生活をしていないよね」と言われるとハッとなると思いますよ。仕事に追われているとか、人間関係に追われているとか、何かに追われている感じ。バランスが崩れちゃってる。佐倉はバランスが保てるまち。生活があるまち、だと思います。

ソメイノファーマーズマーケット

開催日時 毎週土・日曜日 10:00~16:00
(雨天決行)
場所 七井戸公園前の沿道(佐倉市染井野)

Someino Innovation Farmホームページ

https://www.someino.com/