
患者さんと地域に「必要とされる」喜びを求めて-聖隷佐倉市民病院の挑戦 副院長 小谷俊明さん更新日:2025年09月22日
佐倉市にある「聖隷佐倉市民病院」は、その名前から公立病院と誤解されがちですが、実は民間病院。国立佐倉病院を継承した2004年の開院以来、地域医療の最前線で挑戦を続けてきた副院長・小谷俊明さんに、病院の歩みと未来への展望を伺いました。
聖隷佐倉市民病院の軌跡

医師を志したきっかけを教えてください
学生時代に読んだ手塚治虫さんの医療漫画『ブラック・ジャック』や、当時見ていた医療ドラマがきっかけです。作品を通して医師という職業に強い憧れを抱きました。
国立佐倉病院時代からの変遷と、民間移譲後の第一期生としての経験とあゆみについて教えてください
千葉大学の学生だった頃、国立佐倉病院で初の腎移植を行うなど、先進的な活動をしている病院というイメージでした。その病院が無くなり民間へ経営移譲されると聞いた時は大変驚きました。
移譲前に母体の聖隷三方原病院(静岡)を見学し、大きな衝撃を受けました。一つは、1930年創設という歴史の深さと、「隣人愛」(自分のようにあなたの隣人を愛しなさい)という揺るぎない理念。もう一つは、老人ホーム、ホスピスやドクターヘリを日本でいち早く導入するなど、極めて先進的な事業に挑戦し続けてきた事実です 。この事業団の一員として働けることに、大きな希望を感じました。
2004年3月1日に聖隷佐倉市民病院の開院と同時に勤務を始めましたが、待っていた現実は想像とは大きく異なりました。入院患者さんはわずか20人弱、手術や救急の患者さんも驚くほど少なく、「人から必要とされない」ことの苦しさに戸惑う日々でした。加えて、旧国立病院と聖隷、双方のスタッフが混在する現場は組織文化の違いから大変混乱していました。
こうした数々の試練を乗り越える中で、現在の「地域を大切にし、患者さんを大切にする」という聖隷佐倉独自のスタイルが、徐々に築かれていったのです。
地域医療への挑戦:多職種・地域連携が生み出す、名実とも「市民病院」へのチャレンジ
ご自身が、どんなキャリアを積まれ、病院の発展に貢献されてきたのかについて伺います
当初は、患者さんや地域の先⽣⽅からの信頼を得ることが第⼀と考えました。「必要とされる病院、必要とされる医師」になりたいと強く感じていました。私⾃⾝は脊椎、特に側弯症(脊椎が左右に曲がる病気)の治療を専⾨としており、まずはその専⾨分野の診療と研究に注⼒しました。
整形外科部⻑になってからは、それだけでは不⼗分だと感じ、何か新しい仕組みを作らなければと考えました。そこで、地域の先⽣⽅のお役にも⽴てるよう、院内の仲間と共に、⾻粗しょう症(⾻の量が減ったり、⾻の質が低下したりして、⾻がもろくなり、⾻折しやすくなる病気)患者さんの⼿術からその後の薬物治療までを、病院と地域のクリニック、そして多職種が連携してサポートする仕組みづくりに尽⼒しました。
民間移譲後の病院の変化(組織、運営、診療体制など)について、教えてください
国⽴病院のような⼤きな公的組織は、どうしても柔軟な対応が難しい側⾯があります。⼀⽅、聖隷佐倉市⺠病院になってからは、「患者さんのため、病院のためになることであれば、どんどん新しいことに挑戦する。アイデアを出し、実⾏することが評価される」という⾵⼟が⽣まれました。他の病院がやっていないことを、スピード感を持って多職種で先駆けてやる、ということがやりやすい環境です。
多職種が連携してつくる世界に誇る地域連携モデル「OLS」とは
OLSとは「骨粗しょう症リエゾンサービス」の略です。骨粗しょう症による骨折の連鎖を防ぎ、患者さんの生活の質を守るための、多職種による包括的な連携サービスを指します。
私たちはこの仕組みを、病院内だけでなく地域全体で機能させたいと考えました。そこで、スタッフが地域の開業医の先生方を一人ひとり訪ね、地道に信頼関係を築くことから始めたのです。その結果、取り組みの輪は地域全体へと広がり、この活動は国際骨粗しょう症財団から最高位の「ゴールド評価」を日本で3番目に受賞するという快挙につながりました。

地域連携(さくらモデル)構築の背景と成果について教えてください
骨粗しょう症は、一度骨折して手術をしても、その後の治療を続けなければ再骨折しやすいという課題があります。そこで私たちは、当院で手術と専門的な評価を行った後、かかりつけとなる地域のクリニックへ確実に治療を引き継ぐ連携モデル(さくらモデル)を構築しました。この連携を通じて、クリニックの先生方とは多くの患者さんをご紹介いただく中で「顔の見える関係」が深まりました。
こうした緊密な連携は、患者さんにとっては大きな安心感につながります。そして病院にとっては、多くの経験を積むことで若手医師の育成や研究を促進し、その成果を世界へ発信できるという大きなメリットがあります。まさに、関係者すべてにとって良い結果をもたらす好循環が生まれています。
患者さんとの信頼関係:「ここに来て良かった」と言ってもらえるためにと、同時に世界を見据えたアクション
聖隷佐倉市民病院の役割と今後の展望や課題について伺います
第⼀の役割は、「病気になったら、まずは聖隷佐倉市⺠病院に相談しよう」と地域の皆さまに思っていただけるような、絶対的な信頼を得ることです。
その信頼をより確かなものにするため、連携の輪をさらに広げていかねばなりません 。当院とクリニックが繋がるだけではまだ不十分で、今後は病院同士、クリニック同士、さらには整形外科と歯科といった診療科の垣根を越えたスムーズな連携が不可欠です 。その連携を加速させるために、ICT(デジタル技術)の活用も推進していきます 。
こうして地域で深めた知見は、佐倉市だけに留めません 。学会発表や英語論文を通じて国内外へ発信し、世界の医療の進歩に貢献することも私たちの重要な使命です 。地域に深く根差しつつ世界を見据える――それが聖隷佐倉市民病院の目指す姿です 。
「隣人愛」を形に佐倉初のウエルビーイングフェア開催へ
SAKURAウエルビーイングフェア開催について教えてください
コロナ以前に開催しご好評をいただいた「健康まつり」。このイベントが6年の時を経て、「SAKURA WELL-BEINGフェア2025」として大きく生まれ変わります。
開催日時は2025年11月29日(土)。身体的・精神的・社会的に良好な状態を指す「ウエルビーイング」をテーマに、佐倉に関わるすべての皆様の「健康・福祉・生きがい」の向上と、佐倉市の魅力の再発見を目指すイベントです。
当日は、専門家による講演会や健康チェックのほか、今注目の「リスキリング(学び直し)」をテーマにした企画も実施。市内外からお越しの皆様に、佐倉の新たな魅力を感じていただける機会を提供します。
SAKURA WELL-BEINGフエア2025

ウエルビーイングに着目した理由とフェアに特に参加してほしい方はいますか
私たちがフェアの名称に、単なる「健康(ヘルス)」ではなく「ウエルビーイング」という言葉を選んだのは、生きがいや福祉といった、より広い幸福感までを含めたいという想いからです 。だからこそ、このフェアには健康に関心の高いご高齢の方はもちろん、そのご家族、さらには佐倉というまちの魅力に関心を持つ若い世代まで、多くの皆様にご参加いただきたいのです。
SAKURAウエルビーイングフェアに期待することは
このフェアを、私たちの専門知識や連携のノウハウを病院の枠を越えて、市民、企業、学生、行政の皆様と共有する出発点にしたいと考えています 。
佐倉市には、新しいものを取り入れる先進的な風土があります 。この素晴らしい土壌の上で、皆様と共に、他のどこにもない新しいムーブメントを創り上げていく。それが私たちの最大の期待です 。
佐倉への想い
佐倉の好きなところ、もっとこうすれば良くなると思うことがあれば教えてください
東京へのアクセスの良さや多様なレストランといった利便性と、豊かな自然や伝統が残る側面。この「バランスの良さ」が佐倉の大きな魅力だと思います。個人的には、城下町だった歴史からか、まち全体に文教都市としての「品」が感じられる点も好きですね(笑)。
一方で、佐倉には私自身もまだ知らない魅力が多く眠っていると感じます。素晴らしい観光スポットも、意外と訪れたことがないという市民の方も多いのではないでしょうか。そうした隠れた魅力を発信する広報活動をさらに強化されると、まちの価値がもっと高まると思います。ちなみに、佐倉市のインスタグラムは大変素晴らしく、いつも更新を楽しみにしています。

多職種連携・地域連携で他と一味違う「面白い病院」を創る
今後の抱負について教えてください
私たちが持つ多職種連携、地域連携の⼒は、全国でもトップクラスだと⾃負しています。今後はこの強みをさらに発信し、未来を担う優秀な若⼿スタッフに集まってもらいたい。そして、彼らの斬新なアイデアを活かし、他のどこにもない「⾯⽩い病院」を共に創り上げていきたいです。もちろん、その挑戦を支えるのは、地域からの信頼に応える真摯な医療と、国内外への研究発信という両輪です。この土台をこれからも力強く回し続け、私たちは未来へ向かって挑戦を続けていきます。
医師として大切にしている価値観と信念は?
何よりもまず、患者さんに分かりやすく説明し、信頼していただくことです 。そして、個人ではなく、チーム全体で最高の医療を提供すること 。その結果として、患者さんに「この病院に診てもらえて良かった」と思っていただけることが、私の最大の喜びであり、信念です。
これから医療業界を目指す人たちへのメッセージをお願いします
これからAIの時代を迎え、医療の形は大きく変わるでしょう 。中には、AIに取って代わられる業務もあるかもしれません 。しかし、どれだけ技術が進歩しても、人と人が関わり、支え合う医療の温もりは決してなくなりません 。人のために尽くす仕事は、困難も多いですが、それ以上に素晴らしく、やりがいに満ちています 。未来を担う若い皆さん、ぜひこの素晴らしい医療の世界へ飛び込んできてください 。そして、もしご縁があれば、私たちの聖隷佐倉市民病院で、一緒に「面白い病院」を創っていきましょう 。

聖隷佐倉市民病院
千葉県佐倉市江原台2-36-2
https://www.seirei.or.jp/sakura/