フードロスをなくし、日本の農業を元気に! 被災農家支援「チバベジ」が描く未来更新日:2020年02月12日

2019年秋に千葉県を相次いで襲った台風は、農家に多大な被害を及ぼしました。台風15号による県内の農林水産被害額は、過去最高の411億6,700万円(10月4日付千葉県発表)。ビニールハウスの被害額は200億円以上とされています。そんな状況下でいち早くアクションを起こしたのが、被災農家支援団体「チバベジ」。活動への思い、そしてこれから実現を目指していく新しい農業のカタチとは?

日本では、野菜の28%が廃棄されている

台風15号の被災直後に活動をスタートした「チバベジ」。傷がついて市場に卸せなくなった廃棄野菜を農家から買い取り、飲食店や加工所などへ販売してきました。その後、10月には「一般社団法人 野菜がつくる未来のカタチ」として法人化。より持続的な農家支援を目指して活動の幅を広げています。

「チバベジ」を立ち上げたひとり、鳥海孝範(とりうみたかのり)さんは、佐倉市育ち・佐倉市在住。広告代理業を営みながら、市内のゲストハウス「おもてなしラボ」を経営しています。

一般社団法人野菜がつくる未来のカタチ 代表理事 鳥海孝範さん

――「チバベジ」を立ち上げた経緯を教えていただけますか?
鳥海: 台風15号の直後、「災害を受けて自分たちに何ができるか」をテーマに語り合う会に参加したことがきっかけでした。僕はもともと梨農家から廃棄梨を引き取る活動を個人でしていて、それを話したら参加者の中の二人が「一緒にやりたい!」と言ってくれたんです。クラウドファンディングのプラットフォームを運営する人ともつながりがあったので、まずはクラファンで立ち上げ期の資金援助を募ることにしました。

――地元に貢献したいというお気持ちが強いんですね。
鳥海: うーん、そう言うと立派に聞こえますが、本当は「楽しいからやっている」だけ(笑)。以前ニュージーランドに8年いたのですが、海外ではよく「あなたの街はどんな街?」と聞かれるんですよ。でも僕は3歳から住んでいた佐倉市のことを全然知らなかった。だから帰国後は、地域情報誌を発行したり、市と一緒に仕事をしたり、地元のことを知るための活動を続けてきました。梨農家との取り組みも、今回の「チバベジ」も、いわばその一環なんです。

鳥海さんとともに「チバベジ」を立ち上げた安藤共人(あんどうともひと)さんは、茂原市育ち・千葉市在住。金融機関での勤務、企業での事業企画を経て、現在はフリーランスで地方自治体の事業企画などに携わっています。

一般社団法人野菜がつくる未来のカタチ 代表理事 安藤共人さん

――安藤さんはどんな思いで「チバベジ」を立ち上げたのですか?
安藤: 僕は茂原市育ちで、両親も房総出身。台風15号の被害は甚大でしたが、ひとりの力ではできることが限られていたので、鳥海さんと同じ会に参加しました。実は彼とは初対面ではなく、千葉県の仕事やボランティアで会ったことがあって。災害支援はスピードが大事なので、同じ方向を向いている彼と一緒にすぐにでも行動を起こしたいと思い、「チバベジ」をスタートしました。

――「チバベジ」は被災支援の中でも「廃棄野菜」に特化していますが、フードロス問題についてはどう感じていましたか?
安藤: 日本では、生産した野菜の28%が廃棄されています。傷がついたり形が崩れたりしている農作物は、畑で見れば十分おいしそうなのに、スーパーに並んでいると買うのをためらってしまいがち。売れないのでスーパー側も仕入れません。

でも、見た目がいい=味もいいというわけではありません。金融機関に勤めていた頃、イチゴ農家とお付き合いがあったのですが、僕が見た目だけで選んだイチゴより、農家さんが選び抜いたイチゴのほうが断然おいしかった。青いまま出荷するスーパーの野菜より、完熟ギリギリまで枝についていた被災野菜のほうが味がよかったりするんです。そうした正しい価値観を広める意味でも、「チバベジ」の活動は有益だと思っています。

鳥海: 野菜も人間と一緒で「平等」であるべき。見た目がいいから、有機栽培だから、おいしいとは限りません。その野菜が持つ真の価値を見極めて広めていく、「野菜の広告代理店」のような意識で活動しています。

「チバベジ」で取り扱う廃棄野菜

「チバベジ」における佐倉市の役割

――現在、「チバベジ」が連携している農家と卸先はどれくらいありますか?
鳥海: 農家は20くらい、卸先は県内外の飲食店・加工所・八百屋・イベントなど40くらいです。最初はほとんどの農家が「被災した野菜を本当に買い取ってもらえるの?」という反応でしたが、実際に集まった売上金を持っていくとみなさん驚きつつも喜んでくれて。卸先に関しても、最初は「災害支援のために」と買ってくれていましたが、実際に食べてみたらおいしいことに気づいて「捨てるのはもったいない」と積極的に買ってくださるようになりました。

――値付けが難しそうですね。
鳥海: そうなんです。廃棄野菜は皮を厚めにむいたり傷を取り除いたり、卸先に手間と費用が生じます。だから正規品より安く売らざるを得ませんが、なるべく差が出ないように心がけています。加工品にすれば売上が3割ほど上がるので、今は加工品販売に力を入れているところです。

安藤: 佐倉市の飲食店のシェフたちで活動している「佐倉ism」というグループがあるのですが、そこと連携してジュースやソースをつくったりしています。また、彼らにレシピ監修をお願いし、障がい者就労支援施設「生活クラブ風の村 とんぼ舎さくら」でピクルスを加工してもらっています。

――佐倉市の人たちとのつながりも多いんですね。
鳥海: そうですね。小学校の給食や、企業の食堂などでチバベジの野菜を使っていただくお話もいただいているところです。

また、佐倉市の「オリベート」というイタリアンレストランにも野菜を卸しているんですが、昨年ローマ教皇が訪日されたときに昼食会を担当したのがそのレストランで、僕たちの被災野菜を使ったメニューも提供していただけたんです。

(ローマ教皇の昼食会を担当したのは佐倉のレストランだった! 「オリベート」萩原勇作さんインタビュー https://sakulike.jp/like/736/

安藤: 千葉県の野菜の生産地は、佐倉から銚子あたりまでがメイン。そのため、生産者から野菜を集めて消費者へ届けるには佐倉市がいい窓口になります。ちょうど僕たちが拠点にしている「おもてなしラボ」も佐倉市にありますしね。

廃棄野菜を活用した加工品のサンプル

千葉、そして全国の農家を元気に

――「チバベジ」の今後のビジョンを教えてください。
鳥海: 当面は加工品販売を強化したいです。1月20日から3月31日までペリエ千葉本館のチバコトラボ3階に出店し、野菜の収穫体験や販売、加工品の販売、ワークショップなどを行なっています。ゆくゆくは自分たちで加工会社を持って、農業の6次産業化をさらに目指していきたいですね。

安藤: あとは食育。小学校での授業やペリエ千葉での出店もその一環ですが、食やフードロスに関する価値観を子どもの頃から養えるような取り組みをしていきたいです。

ペリエ千葉の出店の様子

――被災野菜の買取販売にとどまらず、6次産業化や食育を通じて農家を支援していくということですね。

鳥海: 千葉は農作物の生産量では全国上位なのに、農家の収入は意外と少ない。生野菜のまま東京に売れてしまう距離感なので、より利益の出る加工品にするという文化があまりないんです。僕たちが加工のノウハウや販路を持ち、儲かる仕組みをつくることで、既存農家はもちろん新規就農する人たちをも支援していけるはず。「がんばっている農家がふつうに暮らせる」ことが当たり前の日本、それが理想ですね。

安藤: 僕たちが見据えているのは「地域」「千葉県全体」「日本全国」の3つのライン。「チバベジ」での取り組みを確立できれば、全国の農家で模倣が可能になると思います。千葉を起点に新しい日本の農業のカタチを実現していくことが、僕たちの目標です。

一般社団法人 野菜がつくる未来のカタチ
〒285-0023 千葉県佐倉市新町168
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(クラウドファンディングの募集は終了しています)