日常の「どうして?」から生まれた研究が文部科学大臣賞を受賞 ~探求心にあふれた兄妹にインタビュー~更新日:2020年04月02日
佐倉市に文部科学大臣賞を受賞した兄妹がいる――。そう聞いて伺ったのは佐倉市ユーカリが丘在住の横内さんのご自宅です。リビングには額縁に入った賞状がずらり。これらはすべて、長男の横内敬文(たかふみ)さん(千葉大学教育学部附属中学校2年生)、長女の敬子(あきこ)さん(佐倉市立志津小学校5年生)がこれまで数多くの作品コンクールでもらったものです。
その一つ、塩野直道記念第7回「算数・数学の自由研究」作品コンクール、通称「MATHコン」で敬文さんが中学1年時に受賞した文部科学大臣の大きな賞状です。選んだテーマは「ヴァイオリンソナタ第一番『雨の歌』の数学的分析から見る作曲者ブラームスの心象風景」。ブラームスが「雨の歌」を作曲したとき、どんな気象状況だったのか。曲を解析することで知りたいと始めた研究だったそう。音楽と数学、気象を関連づけた研究テーマはどう思いつき、どう進めたのか。これまで数々の研究作品を手掛けてきた敬文さん、敬子さんに話を聞きました。
――これまで、全国小中学生作品コンクールで数多くの賞を受賞してきました。研究が面白い!と思ったきっかけとは?
敬文:
小学1年生の夏の「夏休みの自由研究」で、梅雨明け後の猛暑はどうして起きたのかについて“天気図日記”を作りました。その年(2013年)はものすごく暑くて、「どうしてこんなに暑いの!?」という素朴な疑問を、自分で調べて理解していくのがすごく面白かった。天気図を作るときには、気象予報士の母に教えてもらいました。
敬子:
私は自由研究で、佐倉の町の液状化の危険場所についてや、志津小学校のハザードマップ作りなどに取り組んできました。大人が作ったハザードマップを見ても、どこが危険でどこが安全なのかぱっとわからない。じゃあ、自分がわかるように調べてみればいいんだ!と思って取り組みました。自分の足で街を歩いて「この場所は危険そう」「ここはどうかな?」と考えるのが面白いんです。予想した通りに危険だったり、意外に安全だったりすると「やっぱりそうなんだ!」「どうしてだろう」とまたいろんな疑問がわいてくる。動けば動くほど、次に調べたいことが出てきます。
――二人の自由研究のテーマは、天気のこと、防災のこと、お米や野菜のこと、そして音楽のことなど多岐にわたります。テーマはどう決めるのでしょうか。
敬文:
旅行に行って感じたことや、ニュースや本を読んで疑問に感じたことをテーマにしています。例えば、小学5年生で作った「南魚沼産コシヒカリ」の自由研究は、友達との二人旅で行った新潟でお米のおいしさに感動して調べ始めました。
敬子:
私も震災のニュースなどを見て「志津小学校区なら、どの場所が安全なんだろう?」と考えるところから始まります。防災に興味を持ったのは、お母さんが東日本大震災の被災地に出張したとき、私たちも一緒に連れていってくれたから。新聞やテレビのニュースなどで行った場所のことが書いてあったり映像で流れたりしたときには、防災の大切さを感じます。
――自由研究を進めるとき、参考にする資料はどうやって探しますか。
敬文:
インターネットでどんな本があるかを調べて、図書館で借ります。コシヒカリの研究をしたときは、南魚沼のお米農家さんに話を聞きたくて、自分で“取材のお願い”をしました。新潟の農協(JAグループ新潟)に電話をかけたら農家さんを紹介してくれたんです。農家さんに取材OKをもらったら、「おいしいお米の秘密が知りたいから連れていって」と、母に頼んで連れていってもらいました。
敬子:
どうやって調べればいいかわからないときは、お母さんや学校の先生に聞きます。ハザードマップ作りのときは、危険な場所の特徴がわかったら、小学校の周りを自分で歩くようにしました。「本に書いてあった通りだ!」と発見できたのが楽しかったです。
――敬文さんは、2019年のMATHコンで音楽と天気の関係性を調べる論文を書きました。このテーマが生まれた理由とは?
敬文:
僕が所属する「成田ジュニア・ストリングオーケストラ」の指導者・勝又智子さんが一昨年に亡くなってしまい、その追悼演奏で聴いたのが、ブラームスの「雨の歌」でした。勝又さんの志を継いで、新たにジュニアオーケストラの指導者になったヴァイオリニストの今仲尚子さんが演奏されたのですが、曲の明るい印象に意外な感じがしたんです。「雨の歌」というタイトルから、しっとりと落ち着いた曲なのかと思ったら、“雨”のイメージとはまったく違って、陽が差してくるような感じがした。「ブラームスはどんな思いを込めてこの曲を作ったんだろう」と調べてみたくなり、作曲時の気象状況を読み取れたら面白いなと考えました。
――自身もヴァイオリンを演奏するそうですが、演奏するときは作曲家の思いや、曲が生まれた背景を調べるものですか。
敬文:
はい。作曲家が曲に込めた思いをどれだけ理解しているかで、演奏が全然変わってくるんです。「雨の歌」の研究では、僕が演奏し、その周波数をグラフにして、この曲が生まれたときに近い気象状況を天気図に再現しました。午前中に降った雨が午後におさまっていき、夕方にはキレイな晴れ間が出る。そんな当時の様子が見えてきて、「雨の歌」が持つ明るさ、ほがらかさの理由がわかった気がしました。
――佐倉で生まれ育ったお二人ですが、佐倉で過ごす魅力は何だと思いますか。
敬文:
佐倉市民音楽ホールや、国立歴史民俗博物館など、伝統ある建物がたくさんあるところ。緑がキレイなところ。毎年、国内のいろんなところに旅行に行きますが、佐倉に戻ってくると「僕の町って、自然がたくさんあってキレイなんだな」と改めて思います。
敬子:
野菜がおいしいところ。直売所で新鮮な野菜が売っているし、給食で食べる佐倉産のお米も野菜もすごくおいしい! 学校の周りには田んぼや畑があって、農家さんが野菜を作っている様子も見えたり、話を聞きに行ったりすることができる。「今日食べた野菜は、あの畑で採れたのかな」「どうやって育てているんだろう」といろんなことを考えさせてくれる場所だなと思います。
――これからの可能性に満ち溢れたお二人。将来の夢、やりたいことは何ですか。
敬文:
宇宙開発技術者になって、地球環境や自然災害、資源の問題を解決する人になりたい。日本は災害が多いので、地球を取り巻く宇宙のことをもっと知れたら、災害についてもわかることが増えるんじゃないかと思っています。
あともう一つ、AIの研究者になって、「AIが音楽の無限の可能性を表現するにはどうすればいいか」というテーマにも挑戦したいです。
敬子: 災害について興味があるので、災害の研究者になって私たちの生活を守る人になりたいです。
お母さまに聞く! 佐倉で子どもを育てる魅力とは
佐倉で生まれ育ち、「子どもを育てるなら佐倉がいい」と思っていました。子どもが生まれる前は都心へのアクセスを重視して佐倉から離れていましたが、出産を機にUターン。以来、佐倉から2時間弱かけて通勤しています。
医療機関に勤める夫と、気象予報士の私で、共働き生活を続けながら二人を育ててきました。長男を出産して約2か月後には職場復帰していたので、二人は保育園の保育士さんに育ててもらったようなもの。私自身、常に仕事に忙しく、子どもたちとじっくり向き合えていない…という負い目がありました。なので、子どもたちが興味を持ったことは見逃さず、さらに興味が広がっていくような機会を提供しようと考えていました。敬文は小さいころから気象に興味を持っており、天気図や衛星画像の見方、研究の仕方を教えると、自分でどんどん調べるようになった。「こんなことを調べたい!」と自分からテーマを見つけてくるので、子どもの探究心には驚かされています。
なかなか長い休みもとれないので、出張があるときは一緒につれていき、経験だけは多くさせてあげたいなと思っていました。子どもたちが話した「被災地への出張」は、被災地へ導入する防災情報システムの設計を担当していたときのこと。そこから二人とも防災に興味を持つようになり、現地にいく大切さに気づかされました。
佐倉には、子どもを刺激するものが日常的にあるなと感じています。志津小学校でも佐倉のおいしい食材を使った給食や、佐倉の歴史を学ぶ「佐倉学」の授業など、身の回りのことに興味を持てるようさまざまな機会を提供してくれる。学校が知的好奇心を伸ばしてくれるから、二人ものびのび研究を楽しんでいるのだと思います。
横内敬文さん
千葉大学教育学部附属中学校2年生。好きな科目は数学。5歳の頃から将棋、ヴァイオリンを習う。成田ジュニア・ストリングオーケストラに所属し、コンサートマスターを務める。
【受賞歴】
小学5年生:第35回全国小中学生作品コンクール社会科部門/日本社会科教育学会会長賞受賞
テーマ「10歳・自立への旅路 南魚沼産コシヒカリの魅力を迫って~新潟県南魚沼地域における水稲生産の真髄を探る~」
小学6年生:第36回全国小中学生作品コンクール社会科部門/文部科学大臣賞受賞
テーマ「『想定外』の衝撃!迫りくる自然災害から僕達の命を守る学校防災教育に正面から向き合う 被災地から学んだことを生かして設計構築した【志津小学校版・独自防災教育カリキュラム】」
中学1年生:塩野直道記念第7回「算数・数学の自由研究」作品コンクール/文部科学大臣
テーマ「ヴァイオリンソナタ第一番『雨の歌』の数学的分析から見る作曲者ブラームスの心象風景~気象観測値と楽譜の周波数変換値を用いた時系列データの類似度比較~」
横内敬子さん
佐倉市立志津小学校5年生。好きな科目は社会。3歳の頃から将棋、ヴァイオリンを習う。成田ジュニア・ストリングオーケストラに所属。
【受賞歴】
小学2年生:第35回全国小中学生作品コンクール生活科部門/文部科学大臣賞
テーマ「液状化げんしょうがおこりやすいのはここだ!~中えつ地しんのひさい地で学んだことを生かし、私の町の液状化きけん場所をつきとめる~」
小学3年生:第35回全国小中学生作品コンクール社会科部門/中央出版株式会社社長賞
テーマ「志津小学校の子ども達が自らの命を守ることができる体験型自然災害ハザードマップ~志津小学校区をよく知り、地いきで発生する自然災がいから生きのびる~」